月の記録

長い豪奢な廊下の先でスザクは足を止め、小声で話した。

「そしてここが、ルルーシュ殿下のお部屋だ」
「そうか、ここが」
「記録・・・」

ジノはようやく目的の場所が解ったと、嬉しそうに笑うのだが、スザクを始め警備のものが夜這いなどさせるはずがないし、そもそも皇族に手を出そうと本気で思っているのかと、アーニャは冷たい視線を向けた。

「ジノ様、ルルーシュ殿下はとても気難しいお方。突然の部屋をたずねるような真似はお控えください」

スザクが釘をさす前に、メイドが忠告をした。

「だが、殿下と直接お話しすることもあるかもしれない」

ジノにしては珍しく厳しい口調だった。ラウンズと皇族のやり取りに、メイドが口出すなといいたいのだろう。だが、メイドはそんなジノの反応は気にすることなく話を続けた。彼女がメイド長となり、さらにはルルーシュ専属とさえ言われている由縁はこれだ。

「スザク様も直接お部屋へ向かわれる事は禁止されております。ルルーシュ様に御用がある時は、まずはお食事の席でお声をかけてください」
「人目のある場所では話せない事もあります」
「その場合は、わたくし共にまずその旨をお話ください。お部屋をご用意いたします。ルルーシュ様の機嫌を損ね、アリエスへの立ち入りを禁じられたくなければ、お守りください。スザク様、これ以上はルルーシュ様の機嫌を損ねかねません」

部屋の壁も扉も厚いが、人の気配に敏い皇子だ。
立ち話に気づかれたら大変なことになる。

「そうだね、すぐに移動しよう」

ルルーシュは一度怒れば手がつけられなくなる。
それでなくても嫌われているスザクがいるのだ。
今回の任務から三人とも外され、他のラウンズが来ることにもなりかねない。
移動しようとしたその時、スザクの耳は人の声を拾った
念のためルルーシュの部屋に意識を向けた時に聞こえた声。普通の人には聞き取れないだろうが、スザクは耳がよく小さな音もよく拾うのだ。こんな時間に？と訝しんだが、その声はどこか楽しげで、女性の声も混ざっているように感じた。
こんな時間に、ルルーシュの部屋に女性が？
いや、テレビかラジオの声か、寝つけずに映画でも見ているのかもしれない。
妹であるナナリーさえ遠ざけるルルーシュが、女性、それも『複数の人間を夜中に部屋へ招き入れるなんてあるはずがない。
スザクは周りに気づかれないよう聞き耳を立てながら、その場を静かに後にした。

翌日、朝食の席にルルーシュはいなかった。
疲れがたまっていたのか、今日は部屋で食事を取ることにしたという。ルルーシュと一緒に食事が出来ると喜んでいたジノは、もしかしてスザクがいるからだろうか？と睨んできたので、違うとは言い切れないスザクは視線に気づかないふりをした。

「ルルーシュ様いない。残念」

アーニャは朝食の写真をとりながらポツリとつぶやいた。

「貴方たちはこれからルルーシュと出かけるのだから、お昼は外で食事をしてきたらどう？」

軽い口調でマリアンヌにいわれ、食事の席はざわめいた。皇族を連れてお忍びで昼食となると、どんな場所に連れていけばいいのか全く分からない。本来であればドレスコードが必要な場所だが、今回はあくまでもお忍びのため、ごく普通の庶民の服を着て移動になる。ルルーシュが機嫌を損ねない食事？考えただけでもいが痛い。

「何を真剣に悩んでいるんだ？ピザを食べに行くに決まっているだろう」

同席していた魔女はあっさりといった。

「C.C.、貴方まだ飽きもせずにピザを食べているの？」
「飽きるわけがないだろう？小麦粉にチーズ、そしてトマトと各種野菜に肉と海鮮。たった１枚のピザで全ての栄養が賄えるんだぞ？素晴らしい料理じゃないか。それなのにお前たちときたら、何でそんなにピザを食べないんだ。朝ピザに期待したのに、こんな普通の朝食を出して、私はガッカリしたぞ」
「太るもの」
「あれはカロリーの塊ですよ？C.C.さん」

マリアンヌとナナリーは即答えたが、C.C.は不思議な物を見る目で二人を見た。

「何を言っている。私はピザを食べ続けているが、数百年体形は変わっていない」
「不老不死の魔女と、私たちを一緒にしないでくださいね？」
「ルルーシュだってそこそこ食べているが、見ての通り細いぞ」
「貴方がピザを食べさせた後、あの子はあまり物を食べなくなるじゃない」

胸やけして。
C.C.のピザ発言に、マリアンヌとナナリーは呆れたように言った。皇族相手にこのような発言をしても普通に受け止められている。やはりこの魔女はブリタニアの皇室に絶大な影響力があるらしい。

「もやしっ子の胃は軟弱だからな。だが、今日の昼はピザだ。それ以外私の胃は受け付けないし、そこ以外行かせない」
「・・・スザク君、ルルーシュをピザだけではなく、他のものも食べられるお店に連れて行ってあげてね」
「はぁ・・・ですがそうなりますと」
「ピザメインで、パスタも扱っている店を私は知っている。決まりだな」

魔女は楽しげに笑いながらパンをかじった。